2012/02/02

名前のない馬


 専門が競馬、というか、馬と馬で仕事をしている人たちについて勉強しているので、うちの大学に来る若い衆たちはまだロクに鞍置きもされてない馬だよ、とよく言います。それに比べて、東京や大阪の大学をめざす、国公立や私立の有名なところを狙って勉強してきたような子たちは、早い時期から馴致も調教もされて、3歳の夏からデビューするような馬だよ、と。

 そりゃ今の時点で比べたら話にならない。向こうは早くから競馬を使うように仕上げられてきたわけで、レースのやり方も一応知ってるし能力もそれなりに磨かれている。こっちは、まだ牧場でゴロゴロして何も手がかけられていなかったりするわけで、現時点じゃそりゃ勝負になりません。

 でも、今仕上がって競馬している馬は、若いうちからしごかれた分、もう消耗しきってるかも知れない。有名な大学に何とかもぐりこめたとしても、そこから先はもういっぱいいっぱいかも知れない。こっちはまだ何も手当てされてないのだから、やりようによっては2年後、3年後には互角に勝負できるような馬も、いるかも知れない。

 いずれ社会に出て働いて、自分で稼いで生きてゆくことにおいては、どの馬も同じこと。今はまだ全然別の場所にいるのだとしても、4年後に同じレースの同じゲートに入ることができるようになれば、それで帳尻は十分あうはず。何より、そこからが本当の勝負です。

 だから、高校まで何もやってこなかったなあ、と思うのはいいことだし、なんかもうそういう「勝ち組」(いやなもの言いです)にはなれないんだなあ、と落ち込むのも、まあ、悪いことでもない。でも、まだ何も始まっていないんだ、ということは忘れないで下さい。ましてや、生きものとして、一番変わってゆけるチカラを宿している十代から二十歳過ぎのこの時期です。これから鞍を置いて、調教をしてゆけば、「化ける」ことだって十分にあり得る。そのことをきちんと信じてみることが、いまの高校生にとって、まず何よりも大事なことだと思います。

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